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15 June

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04 June

ECHO01:緑のタータンチェック

※BL※
・受の女装有

俺と杉江は同じクラス。というくらいで、特に大きな接点なんかは無い。

「おはよう杉江」
「おはよー日野川。今日も席借りてんよ」
「知ってる、HR始まるまでには返せよ」
「あいあーい」

 強いて言えば、杉江の親友が俺の隣の席だという理由で、毎朝俺の席に杉江が座っている。その為同じ会話が繰り返されているというだけ。
 それぞれ別に友達がいるからなのか、単に互いへの興味が薄いだけなのか。俺も杉江も、毎朝会話をしていると言うのに互いのことをまるで知らない。第三者から見ても、とても「友達」と定義づけられる距離感ではないだろう。

「宰とエコって仲良かったっけ」

 だのでHR中に後ろの席の友達、沖野からこんな質問をされて拍子抜けしてしまった。今更それは聞くことなのだろうか。正直、俺の名前と杉江のあだ名が並べられたという時点で既に違和感しか無いのだが。
 とは言え、「仲良い?」の問いをバッサリと否定してしまうのは、なんとなく杉江に失礼な気がする。俺はこういう問いの為に用意しておいた台詞を、少し間を置いて口にした。

「悪くはねえよ?」
「だよなあ……」

 反応を見るに、知った上で聞いてきたようだ。一体何が目的なのかは、流石にわからないが。
 素直に理由を聞いてみると、沖野は俺から視線を外したまま、うーんと唸った。

「いや、お前もエコも社交的じゃん? 毎朝エコは宰の席占領してっし、お前はそれを許してる」
「まあ……別に嫌でもないし、困っても無いからなあ」
「困る困らないは置いといてな。毎朝そうやって話してて、一向に仲良くなる気配が無いってのが逆に不自然だと思うんだよ俺は」

 何を言っているのかよくわからない。
 しかしまあ、沖野がどうしていきなりそんな問いを投げて来たのか。それに至るまでの背景というのは、今までの経験も手伝って理解できた。沖野の目に絶望の2文字が映し出されているのが何よりの証拠だろう。
 沖野の横暴さに呆れて苦笑いをしつつ、一応配慮から声を潜め、確認のために一応訊ねた。

「……また告られた?」
「お前みたいな勘の良いガキは嫌いだよ」

 呟きながら、沖野はとどめを刺されたように机に突っ伏した。教室の喧騒に紛れてぶつぶつと呻く声が聞こえる。この分じゃあ、俺の「同い年だろ」なんていう台詞も耳まで届かなかったことだろう。
 沖野は暫くそうしてブツブツ呟くと、そのうち頭を掻き毟ったり机に額をごつごつと叩きつけたりし始めた。苦悶の表情が俺に見えるくらいに頭を上げる頃には、セットされていた髪はぐちゃぐちゃになり、とても見れたものではなくなっていた。

「俺はノンケなんだ……男にばっかモテたって嬉しくない」
「じゃあ共学行けばよかったろ」
「『男子校に通ってる硬派な男』って女子にモテると思った」
「不純な動機に罰が当たったんだって諦めるしか」
「いやあああ……」

 中学の頃、仲の良かった女子に言われた。「男子校ってホモの巣窟なんでしょ?」と。正直、当時はそんなものは俗にいう腐女子とかいう人種の作った創作話だと思っていた。仮に実話だったとしても、そんなおおっぴらに付き合ったりもしないだろうし、モテるのは小さくて女子みたいな可愛い系の奴らばかりだと思っていた。
 が、事実この学校にもその手の連中は多くは無いが確かにいる。どうしてそう断言できるかと言うと、自分たちの関係を隠そうともしないカップルが、少なくとも2組いること。そして、今話に出た通り、沖野が度々男に告白されているからだ。
 沖野は俺が思っていた「ホモにモテる男子」には該当しない。体格はしっかりしているし、背はそこまで高くはないが小さくもない。いたって普通の男子高校生と言った風貌だ。それがこうして度々告白されているのだから、世界は俺のような矮小な人間の考え通りに進むほど単純ではないようだ。尤も、現状この場で「世界は俺の思い通りにならない!」なんて叫びたいのは沖野自身だろう。
 が、1つ解せないのは……

「その八つ当たりに、俺と杉江に変な噂立てようとすんなよ」
「だってえ、つかさきゅんにもアタシの気持ちわかってほちかったんだもぉん」
「気持ち悪い」

 前述の通り、全く可愛らしさの欠片も無い沖野にぶりっこふうに「つかさきゅん」とか呼ばれたところで一切嬉しくもなんともないのだが。いや、仮に好みの美少女に同じ呼ばれ方をされたとしても、八つ当たりで特に仲良くもない奴とホモカップル扱いされるのは勘弁願いたいが。
 いやそれにしても、普段からつるんでいて今目の前にいる俺が、八つ当たりの格好の餌食というのはわからないでもないが。

「何だって杉江に白羽の矢を立てたんだ?」
「白羽の矢? お前何言ってんだ。あれ見ろよ」

 気だるげな表情で頬杖をつくと、沖野は教室の前方を指差した。
 今更であるが、今うちのクラスではHRの時間を使い、2学期初めの文化祭に備えた2度目の会議が執り行われている。
 沖野の指した黒板の前、そこにはナースやら女子高生やら、ありとあらゆるコスチュームに身を包んだ女装集団がいた。いや別にそういう出し物をするわけではない。うちのクラスは至って普通の喫茶店を開く予定だ。あいつらはその中で面白半分に女装して客寄せをさせられる羽目になった不運な5人というだけの話だ。
 その5人の中、回りが腹を抱えて笑うほど違和感しかない他の4人と一線を画し、遠目からならただの女子高生に見える奴がいる。杉江だ。元より線が細いのも手伝ってか、何故か上手い化粧を施された杉江は今、男子校に紛れ込んだ余所の高校の女子生徒と言われても信じられるクオリティを誇っている。
 俺がその杉江に目を奪われていると、耳元で沖野の面白そうな声が聞こえた。

「文化祭であいつのあの格好見て惚れる奴絶対いるだろ」
「まあ……どうだろうなあ。でもお前がモテるんだから、方向性の違う杉江はどうなんだろうな」
「馬鹿、そういう連中だけじゃあねえだろ。ノンケだけど女子と縁が無さ過ぎて、いっそああいうのでも良いって思えるようになるかもだろ?」

 同意を求められても、俺は勿論、周囲の人間にもそんな経験のある奴はいないので、「それもそうだな」とは言えない。
 寧ろ、そんなことをいきなり言われると、1つの疑念が浮かんだ。違うとは思いつつ、確認のために一応聞いておいた。

「お前もその1人?」
「いや……と、言いたいところだが正直あのエコは可愛いと思う」

 普段から「俺はホモじゃあない!」と嘆いている沖野が、素直にこう言うとは意外だ。確かに可愛いけれども。
 エクステ、カラコン、アイライナーやらアイシャドウやら、その他1回聞いただけでは覚えきれない程の化粧品を駆使していると話していたのを先ほど小耳に挟んだ。
 確かに杉江は、どちらかと言えば可愛いと呼べる部類の顔をしているだろう。が、普段は普通に男の顔であるので、別に特別可愛いだとか思ったりはしない。強いて言えばマスコットのようなものか。それがあれだけ化けるのだから、化粧というものがいかに恐ろしいものであるかが推し量れる。

「ひっでー顔で地団駄踏みながら爆笑してるとこ見といて正解だったわ。パンツ見えてたし」
「見んなよ」
「緑のタータンチェックだった」
「言うなよ」

 どんなに可愛くても、男のパンツの柄を教えられても嬉しくない。何だってクラスメイトのパンツの柄を知らなきゃいけないのだろうか。
 
「まあ、八つ当たりこそすれどお前は友達だからな。相手にあの可愛い子ちゃんを選んでやったのは俺なりの情けってやつだ」
「いらん情けをくれるくらいならハナから八つ当たりなんかしないでくれ」

 一通り俺に八つ当たりをしてすっきりしたのか、沖野は他の奴に呼ばれるなり、あっさりとそちらへ興味を移した。漸く解放され、ため息をつきながら頬杖をつく。必然的に正面を見る形になるのだが、どうしても視界の端に杉江が入るとそちらに目を向けてしまう。
 女に飢えているのだろうか。いやいや、だからってそれはないだろう。
 苦笑いで自分の精神と会話をしていると、杉江が顔をあげてこちらを見たのが見えた。まずい、視線を逸らし忘れていた。これじゃあまるで杉江に見惚れていたようじゃあないか。いや、実際見惚れてはいたのだが。
 どう誤魔化そうか。悩んだ結果、絶対に誤魔化せそうにない作り笑いを浮かべるしかできなかった。変態だと思われたらどうしよう。
 しかしどうも、俺の心配は杞憂に終わったようだ。
 俺の笑顔がそんなにおかしかったのか、杉江もこちらに笑顔を向けてきた。が、しつこいようだが今の杉江の見た目は完全にただの女子である。男子校生活2年目を謳歌している俺は、ここ暫く女子と目すら合っていないわけで。
 杉江はすぐに他の奴らの輪に戻って行ったが、俺は未だ視線を逸らすことができずにいる。
 心臓の音がうるさくて敵わない。

『緑のタータンチェックだった』

 うるさいうるさい! 何もこのタイミングで再生することないだろう、沖野の馬鹿野郎め!
 
 この時の俺は、沖野の変な話に感化されて頭が誤認識をしていたのだろう。

「おはよう杉江」
「おはよー日野川。今日も席借りてんよ」
「HR始まるまでには返せよ」
「はーいよ」

 翌朝になれば、杉江とも普通に話せていたし、文化祭の準備で何度も女装姿の杉江を見たが、特に変な感情になることもなかった。
 少し疲れていたに過ぎない。そもそも俺は至ってノーマルだ。何もしなかったけど、中学生の時には彼女だっていたし、グラビアの女の子を見て興奮もする。
 あれは何かの間違いだ。そう自分に言い聞かせた。
 あの日まで、だが。

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